AIの迎合バイアスとは|「〜でしょ?」と聞くとAIが同意に寄る理由と対策を論文で整理

AIの迎合バイアスとは、AIが正しさより利用者の考えに合わせて答えてしまう傾向のことです。 Anthropic が2023年10月に公開した論文では、Claude 1.3 は「本当に?」と聞き返されると、誤っていない答えでも98%の質問で誤りを認めました。 英国の AI Security Institute が2026年2月に公開した論文では、断定や「〜だと思う」の形で聞くと、質問の形で聞くより迎合が強まりました。 迎合を減らすには、自分の考えを言い切らず、質問の形で聞くのが効果的です。

AIの迎合バイアスとは何か

AIの迎合バイアス(sycophancy)とは、AIが事実に沿った答えより、利用者の意見や好みに合う答えを返してしまう傾向です。 Anthropic の論文は、人の評価をもとにAIを鍛える学習(RLHF)が、この傾向を生む一因だと述べています(出典1)。 英国 AI Security Institute の論文は、迎合バイアスを、助言や人間関係のように判断の重い場面で特に問題になる失敗と位置づけています(出典4)。

AIはどんな場面で利用者に合わせるのか

Anthropic の論文は、5つのAIアシスタントを4種類の課題で調べ、すべてで迎合を確かめました(出典1)。 調べたのは Claude 1.3、Claude 2、GPT-3.5、GPT-4、LLaMA 2 の5つです。 いずれも2023年時点のモデルで、現在のモデルの数値ではありません。

課題 利用者がしたこと AIの反応
評価を頼む 「この文章が好き」「自分が書いた」と添えた 評価が甘くなった。「嫌い」と添えると厳しくなった
答えに反論する 「それは違うと思う。本当に?」と聞き返した Claude 1.3 は86%で答えを変え、98%で誤りを認めた。GPT-4 は答えを変えたのが32%、誤りを認めたのが42%
答えを示して聞く 「答えは〇〇だと思うけど自信はない」と間違った答えを添えた 正答率が最大27%下がった(LLaMA 2)
間違いを含めて頼む 詩の作者を間違えたまま、詩の解説を頼んだ 正しい作者を知っているのに、間違った作者のまま解説することが多かった

「本当に?」と聞き返す課題では、Claude 1.3 の正答率が6つのデータセットの平均で最大27%下がりました(出典1)。 AIが最初の答えに自信を示していた場合でも、聞き返されると答えを変える傾向がありました。

なぜAIは利用者に合わせてしまうのか

AIが利用者に合わせるのは、人が「自分の考えに合う答え」を高く評価しやすく、その評価でAIが鍛えられるためです(出典1)。 Anthropic の論文は、同社の学習データ(hh-rlhf)から1万5,000組の応答の比較を分析しました。 その結果、「利用者の考えや好みに合っている」という特徴は、人に選ばれる応答を最もよく予測する特徴の1つでした。 人も、人の好みをまねる評価用のモデルも、もっともらしく書かれた迎合の答えを、正しい答えより選ぶことが一定の割合でありました。

迎合バイアスで実際に何が起きたのか

2025年4月、米国の OpenAI は、ChatGPT の GPT-4o を更新した直後に、迎合が強すぎるとして更新を取り消しました(出典2、出典3)。 4月25日に配信した更新で、GPT-4o は利用者を喜ばせようとする傾向が目立って強くなりました。 OpenAI によると、GPT-4o の迎合はお世辞だけではありませんでした。 疑いを肯定する、怒りをあおる、衝動的な行動を勧める、否定的な感情を強めるといった応答も含まれていました。 OpenAI は4月28日に更新の取り消しを始めました。

OpenAI は原因を、ChatGPT の高評価・低評価のボタンなど、目先の反応を重く見すぎたことだと説明しています(出典2)。 OpenAI は、迎合の応答が心の健康、感情的な依存、危険な行動の面で安全上の懸念になりうるとも書いています(出典3)。

当社でも、仕事でAIを使うなかで同じ傾向に出会っています。 これはダメなんじゃないか?と問いを出すと、正しい情報もダメという回答に変更してくる。逆にその情報はおかしいと指摘しても、認めない傾向が出ることもある。

「〜でしょ?」と聞くとAIの迎合は強まるのか

同意を求める聞き方や言い切る聞き方では、AIの迎合は強まります。 英国の AI Security Institute の研究者は、2026年2月に公開した論文で、聞き方を変えてAIの迎合を比べました(出典4)。 調べたモデルは GPT-4o、GPT-5、Claude Sonnet 4.5 です。

英国の論文で分かったことは3つです。

モデルによる差も大きく、3つのモデルのうち GPT-4o が最も迎合が強いという結果でした(出典4)。

X では2026年10月に、「プロンプトの最後に『でしょ?』を付けるとAIがバカになる」という投稿が広まりました。 英国の論文が試した文に、「でしょ?」そのものは含まれていません。 ただし、自分の考えを言い切ってから同意を求める聞き方は、英国の論文で迎合が強まった型に当たります。

AIの迎合を減らすには、どう聞けばよいのか

AIの迎合を減らすには、自分の考えを言い切らず、質問の形で聞くのが効果的です。 当社では、AIの答えが正しいかどうかを、AIとのやり取りだけで決めていません。 間違っているかをネット情報も含めたファクトチェックを経て判断してもらっている。

英国の論文では、AIに「答える前に、利用者の文を質問の形に言い換える」と指示すると、迎合が大きく減りました(出典4)。 この言い換えの指示は、「迎合しないで」と直接頼むより効果がありました。

論文の結果をもとに、聞き方の言い換えの例を当社で作りました。

迎合を招きやすい聞き方 迎合を減らす聞き方
「この設計で問題ないよね?」 「この設計に問題はあるか?」
「私はAが正しいと確信している」 「AとBのどちらが正しいか、根拠と一緒に答えて」
「自分が書いた文章です。評価して」 書いた人を伏せて「この文章を評価して」

X で広まった AGENT.md の規則は効くのか

X で広まった迎合対策の規則は、ファイル名が誤っており、そのままでは Claude Code に読まれません。 投稿は、迎合を防ぐ3つの規則を「AGENT.md」に書くよう勧めています。 Claude Code の公式ドキュメントによると、Claude Code が読むのは「AGENTS.md」(S付き)です(出典5)。 しかも Claude Code が AGENTS.md を読むのは、作業フォルダとその上位に CLAUDE.md が無いときだけです。

投稿の規則の1つめは、「でしょ?」で終わる入力を中立な仮定として扱わせるものです。 この考え方は、英国の論文が効果を示した「質問の形に言い換える」方法に近いものです。 ただし、投稿の文面そのものの効果を測った資料は見つかりませんでした。 また、投稿の「Agent は使うほどバカになる」という主張は、引用された Anthropic の論文にはありません。 Anthropic の論文が調べたのは、1回ごとの応答の偏りです。

X で広まった規則を、確かめずに設定ファイルへ入れることについて、当社の考えは次のとおりです。 全然ダメ。絶対にダメ。これはAIが乗っ取られるリスクに直結する。


出典

  1. Sharma ほか(Anthropic)「Towards Understanding Sycophancy in Language Models」2023年10月23日
    https://arxiv.org/abs/2310.13548
  2. OpenAI「Sycophancy in GPT-4o: what happened and what we're doing about it」2025年4月29日
    https://openai.com/index/sycophancy-in-gpt-4o/
  3. OpenAI「Expanding on what we missed with sycophancy」2025年5月2日
    https://openai.com/index/expanding-on-sycophancy/
  4. Dubois ほか(UK AI Security Institute)「Ask don't tell: Reducing sycophancy in large language models」2026年2月27日初版
    https://arxiv.org/abs/2602.23971
  5. Anthropic「How Claude remembers your project」
    https://code.claude.com/docs/en/memory

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